UAV画像による植物フェノタイピングに関する研究

章 浩棟1),溝口 勝1),杉野 弘明2) ,郭 威2)

Posted by Haodong on April 23, 2021

要旨

 近年,ICTの急速な発展に伴い,農業生産現場における情報収集手法が多様化している.例えばUAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人航空機)は現在農業IoT技術の一つに位置付けられており,画像処理・認識技術の発展に伴い,UAV画像や動画の利活用ついて期待が寄せられている.そこで本研究では,UAV画像を活用した広域な農業現場における効率的な草丈の測定手法を提案する.インドのハイデラバードにあるトウモロコシ圃場を研究対象とし,2018年10月から2019年2月にかけてUAVで空撮したRGB画像から,栽培作物の草丈の算出を試みた.Pix4Dmapperを利用し,圃場における裸地と作物を入れた2つのDSM(Digital Surface Model:数値表層モデル)を生成し,その差を計算することで栽培作物の高さを算出した.その際,ノイズの影響を削減し,作物単体の最高点を自動で抽出するため,画像を分割したエリア毎に標高の最大値を取り,画像を平滑化した上で最高点の位置を特定する独自のアルゴリズムを適用した.算出された値の測定精度を見ると,最大誤差は18.13cm,平均誤差率は5.11%,調整済みR2は0.88であった.本研究で提案された手法は,特に大規模農場や丘陵地など徒歩で見回ることが難しい圃場において,植物フェノタイピングの測定作業負荷軽減に資すると考えられる.

緒言

 近年,UAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人航空機)は小型化と低価格化が進んでおり,農業分野においてもUAVにRTK(Real - Time Kinematic)や高度なカメラを搭載することにより,作物の生育状況や圃場の環境状況を把握するツールとして利用され始めている。UAV空撮によって得られた画像から各種情報を抽出し,分析する技術が確立されれば,大規模圃場における複数のフェノタイピング特性を定量的かつ効率的な評価に資すると考えられる.そこで本研究では,UAV画像を活用した農業現場における効率的な作物丈の測定手法を提案する。

方法と材料

調査地
 インドのデカン高原に位置するハイデラバードに在るPJTSAU (Professor Jayashankar Telangana State Agricultural University) のトウモロコシ畑を対象地とした.当該圃場(図1)には栽培時期,IW/CPE,窒素施肥量に応じて27実験区が設けられており,1実験区は4.2m×4.8m,畝の高さは10cm,幅20cm,畝間の幅60cmであった(南岡 2019).

図1 研究対象圃場

調査方法
 本研究では,栽培作物の生育段階に応じ,裸地,6葉期,抽雄期,糊熟期,成熟期の5時期においてUAVによる空撮と現地測定を実施した.撮影機材にはDJI社のUAV(Phantom 4pro)を使用し,搭載されたRGBカメラを用い,対象圃場を撮影高度10mの飛行により撮影した.  植物のフェノタイピングを測定する際には,測定位置の正確性を確保し,後の画像処理における精度を担保するため,UAVのGNSS受信機だけではなく,7個のGCP(Ground Control Point)をジオリファレンスに利用した.各GCP,ソーラーパネル,土壌センサー(TEROS21,METER社製),フィールドルーター,および指定されたUAVの飛行方向を図2に示す.

図2 圃場における設備設置位置とUAV飛行方向

草丈の推定
 以下では抽雄期(2018年12月20日)の画像を例として紹介する.まず,UAV空撮画像から解析を行うソフトウェアであるPix4DMapperを利用し,撮影で得られた約200枚/1実験区の画像を合成し,DSM(数値表層モデル)を生成した(DSM1).同様に10月22日に撮影された裸地のDSMモデルも生成し(DSM0),DSM1からDSM0の標高の差分をとることでDCM(作物の標高)を算出した. 得られたDCMを以下の手順により加工・分析し,各実験区における平均草丈を算出した(Liu 2019). 1. QGISを利用し,各実験区を切り抜く. 2. 範囲内において,n×n(サイズにより調整可能:本研究ではn = 40)のメッシュに切り分ける. 3. n^2個の各メッシュエリア内において,標高値が一番大きいピクセルを抽出する(飯嶋). 4. n×nサイズのラスタ画像を作成し,その周りを囲うように一層のピクセルを追加する. 5. 各ピクセルに対して当該標高値が周囲8ピクセルの標高値よりも高いかどうかの判断を繰り返し,ピークピクセルを抽出する(図3). 6. ピークピクセル数と平均標高値を算出する.

図3:ピークピクセル抽出イメージ(Plot_J, n = 40)

結果

 抽雄期の27実験区における現地調査で得られた値と,本研究にて空撮画像から推定したデータを比較した結果,草丈の最大誤差は,18.13cm(平均誤差率5.11%)であり,R^2は0.88であった(図4).現地測定で得られた草丈に対するドローン画像から得られた草丈の誤差が10%以内の範囲にある実験区は20個であり,5%以内に収まるものは14個であった.

図4 実験区における草丈の実測値と推定値

まとめ

 本稿では,広範囲の農業現場における植物フェノタイピングの測定作業負荷軽減を目的とし,UAVで撮影した画像を用い,効率的な草丈の推定手法を提案した.樹冠位置の抽出が容易である樹木の標高計測と違い,トウモロコシ等の作物は葉の重なり合いや倒伏の発生などによるノイズの処理が課題点であった.これに対し本研究では,画像を分割したエリア毎に標高の最大値を取り,画像を平滑化した上で最高点の位置を特定する独自の計算法を適用することで課題の解決を試みた.提案手法は,特に大規模農場や丘陵地など徒歩で見回ることが難しい圃場において,植物フェノタイピングの測定作業負荷軽減に資すると考えられる.測定された草丈により,植物の生育評価やストレス検知などができ,精密的な圃場管理が期待される。

引用文献

  1. 南岡伸和・伊藤哲・溝口勝・二宮正史(2019): インド・デカン 高原の半乾燥農地における最適灌漑に関する研究 月刊畑地農業, 723 号:20-26
  2. ZhiKai Liu (2019) Extracting Plant Height of Crop Based On Visible Image of UAV, Shanxi: College of Mechanical and Electronic Engineering, Northwest A&F University.
  3. 飯嶋郁雄(岐阜県立森林文化アカデミー 森と木のクリエーター科2年)航空レーザーデータを活用した樹高・本数密度の把握手法の提案.